『おや、貫七にも女子の好みってあったのかい』

 前足を口元に当て、おりんがくすくす笑いながら言う。
 貫七は特に怒るでもなく、壁にもたれかかった。

「そりゃあ……。真剣に探そうと思ったら、俺だってこういう女がいいってのはあるぜ」

『へー、そうなんだ。貫七もいい歳なんだから、そろそろ真剣に考えてもいいと思うけど』

 ずい、と身を乗り出すおりんに視線を落とし、貫七は、ふ、と息をついた。
 そして屈むと、片手でおりんを掬い上げる。

「今は、それどころじゃねぇ」

 ぼそ、と言い、おりんを肩に乗せる。
 そのどことなく固い横顔を、おりんは見つめた。

『おいらが早く戻らないと、お前も幸せになれないね』

 おりんが言うと、貫七は下を向いて、大きくため息をついた。

「まぁな。でもお前のせいで俺が幸せになれないってことじゃねぇ。そこは勘違いするなよ」

 くしゃくしゃと手荒くおりんの頭を撫でると、貫七は踵を返して建物に向かった。

「今は何よりも、お前のことが大事なんだ。それは責任感というよりも、もう俺の生き甲斐だな。お前を戻したい。それだけさ」

『おいらが戻ったら、貫七の生き甲斐がなくなっちまうじゃないか』

 少し笑って言うおりんに、貫七も、はは、と笑った。
 少し、重かった空気が軽くなる。

「お前が戻ったら、それからのことを一緒に考えられるだろ。戻したらそれっきりってわけでもねぇしな。それからのほうが楽しみだぜ」

 どんな感じだろうな、と笑う貫七に、おりんも笑いながらも、少しちくりと胸が痛むのだった。