「おりん。元気は出たかい?」

 夜更け、いつものように厠と称して部屋を出、建物の裏手で貫七はおりんと話をしていた。

『まぁね。ったく、もしもあのまま連れ去られてたら、今後ずっとあの大男に付きまとわれてたってこったろ。気色悪いったらありゃしないよ』

「まぁなぁ。ちょいと引くぐらいの猫好きだったな」

 苦笑いしながら貫七は、少し離れたところに見える、黒い山影を眺めた。

「とりあえず、明日、お山に登ってみよう」

『滝の近くって言ってたね。お嬢さんも連れて行くんかい?』

 政吉らを同行すれば、術者を見つければその場で力のほどを確かめられる。
 だが、貫七は渋い顔をした。

「……いや、あいつらは置いて行く」

『何でさ?』

「鬱陶しい」

 一言でばっさり斬る。
 おりんはまじまじと貫七を見上げた。
 貫七がここまで人を嫌うのは珍しい。