下山後、元の茶屋で少し話をし、貫七は娘ら一行と別れた。
 当然娘は貫七との別れを惜しみ、大男はおりんとの別れを惜しみ。
 すりすりすりすりと頬擦りされ、おりんは今、最早魂が抜けたように座布団に伸びている。

「よぅおりん。大丈夫かよ。飯、食えるか?」

 そろそろ宿の夕餉の用意を手伝いに行く時刻だ。
 部屋で寝転んでいた貫七が上体を起こしておりんに聞く。
 おりんは伸びたまま、ぼそ、と答えた。

『飯は欲しい。でも動く元気がない』

「しょうがねぇなぁ」

 座布団に突っ伏したままのおりんの下に手を突っ込み、貫七は、ひょい、とおりんを抱き上げた。
 そのまま懐に入れ、着物の上から軽く押さえつつ、厨に向かう。

「女将さん。手伝いに来たぜ。こいつの飯、よろしくな」

 厨に入り、おりんを隅に下ろすと、貫七は慣れたように襷をかけて前掛けをつけた。

「おや兄さん。毎日よく手伝ってくれるから、お蔭で大助かりだよ」

 女将がにこにこと応ずる。
 貫七はもっぱら力仕事だ。
 薪を運び、畑に出て野菜を引く。
 水を汲んで、竈の前で火を熾しにかかった。

「随分手馴れてきたねぇ。何だったら、このままここで働いて貰っても構わないんだけど」

「そうだねぇ。お客も兄さんが膳を運んで行ったら、後の対応が全然違うもの」

 厨の女中たちが、きゃいきゃいと笑い合う。