『ガラガラ』


表の入口が開いた。


「おー来たな翔吾、おせーんだよ」

美芳くんが入ってきた男の人に声をかけた。


まだ顔も見てないのにわかるのかな。


意外と背の高い男の人はのれんを上に上げて少し頭を下げ、お店の中に入って頭を上げた。


…え…。


うそ…。


なっ…んで…。


「…は?…心葉里…」


「翔吾……くん」


なんでこんなところにいるの…。


なんで翔吾が…。


「お前ら知り合いなの?」


「…幼なじみ」


美芳くんが聞いた質問に対してさらっと答える。


「心葉里?大丈夫か」


「えっ…あっうん」


びっくりした。


東国くんの声が私に真っ直ぐ届いて。


ぼやけた声を聞いていたのに東国くんの声があまりにもはっきり聞こえて。


「ひさしぶりだな」


「そう…だね」


私は苦笑いで答える。



さっきほど心が、体が重くない。



翔吾はあまり顔に出さないよう、私をあまり見ないで座った。


その方が助かるけど。


「…隣だったんだね」


「ああ、だな」


翔吾は私の幼なじみで、中学の途中までずっと仲良しでいつも一緒にいた。


あの事件が起きるまでは。


私が引っ越してから会うのは今日が初めて。



「もうあいつら遅いから飯食おうぜ」


東国くんがメニューを見ながらいった。


「おーそーだな」


翔吾が軽く返事をして、もう一つのメニューに手をつけた。


翔吾は美芳くんの隣に座っている。


私は東国くんの隣で、妙に近い。


多分これは東国くんなりの優しさなんじゃないかなって会って間もないけどそう感じる事が出来た。



翔吾が来てから私が少しおかしいから。



「私、ちょっとお手洗い行ってくるね」



「そこまっすぐだよ」



美芳くんが指さして教えてくれた。



「ありがとう」



女子トイレの中に入り鏡の前に立つ。



はぁ…。



どうしよう、震えてる。



翔吾が悪いわけじゃないのに。



こんなの、翔吾にも失礼なのに。



翔吾は私のこと一番心配してくれたし、一番傍にいてくれた大切な人…。



だけど、昔のことを思い出してしまう、思い出したくない過去を…。



でも…そんなこと言ってちゃいけない。



ちゃんと話さないと。



あの時はありがとうって伝えないと。



「よしっ!」



トイレを出ると



「翔吾…」



通路の壁に翔吾が寄りかかっていた。


「おう…ちょっと…いいか?」



「うん…」


裏口の方に移動する。


「俺、実は知ってた」


「え?」


なにを知っていたのだろう。


「お前が隣の高校にいるってこと」


そうだったんだ…。



私は全然知らなかった。


もしかしたら…。


「後ろからつけてた時もある」


やっぱり。


翔吾は小さい時から私の心配ばかりして、私が初めてのお使いするって言った時も内緒でついてきてたらしい。


「…ごめんな、お前に会ったら嫌な思いさせるだけなのに」


「そっそんなことない!」



たしかに、私は昔のこと思い出したくなくて翔吾から離れた。


周りの縁を切った。


でも…。


「こうして会った以上もう離れるなんて出来ない」



ずっと後悔してた。


翔吾から逃げたこと。


もう戻れないって思ってた。


「…あっありがとう…翔吾…あの時助けてくれて」


やっと言えた。


今まで言えなかった『ありがとう』。


「ああ…」


「もう大丈夫だよ、だから前みたいに…一緒にいてください」


私は頭を下げた。


「…あたりまえだろ」


翔吾は少し泣きそうだった。



私も泣きそうで我慢するのに必死だった。


「戻ろっか」



「そうだな」



東国君たちのいる所に戻ると2人増えていた。


「おー来たか」


美芳君が私達の方を向いて手を上げた。


「こいつが心葉里ね」


「めっちゃ、美人さんやなー」


まっまた褒められた。


今日はなんかあるのだろうか。


「心葉里、おいで」


東国君に呼ばれてさっきの場所に座る。


「こいつは島中 湊でこっちが久留橋薫」


島中君はなんか、チャラそうな見た目。


でも意外と真面目そう。


久留橋君はなんか、怖い。


背はみんなの中で1番小さいのに口は悪い気がする。


こいつって言われたし、女の子嫌いなのかな。


「花柏 心葉里です」


「じゃあ食べようぜ」


テーブルの上にはもう料理が並んでいた。


おいしそう。


「いっただきまーす」


最初に手をつけたのは美芳君だった。


「いっいただきます」


みんなが食べ始めたのを見て私も食べ始める。


「美味しい…」


「だろ?」


東国君が笑いながら言った。


「うん!美芳君、これ美味しい」


「俺が作ったんじゃねーけどめっちゃ幸せだわ今…」


美芳君は何かに感動していた。


久留橋君は黙々と食べていた。


私がいるから静かなのかな…。


女の子嫌いなら私と少し似てるかも。


私は嫌いなんじゃなくて怖いんだけど。


あんまり関わらないようにしよう。


「みんなはずっと一緒なの?」


「あーそうだなぁ」


なんかみんなの雰囲気が本当に心を許してるって感じがして羨ましい。


「俺と月季は幼稚園から一緒」


そう嬉しそうに言ったのは美芳くん。


東国君のこと好きなんだなぁ。


幼馴染みっていいよね…。


本当に。