「はい。」

太陽が突き出すタオルを受け取る。

「ありがとな。」

「ううん、いいよ。」

「じゃあな。」

「うん。バイバイ。」

小さく手を振る。遠くなる太陽の背中。

あぁー、なんか疲れた。

手に握ったタオルからは、太陽の匂いが

する。太陽がよくつけてた香水の匂い。

懐かしいな。

私もこの匂いが好きなんだよね。

まだ、つけてたんだ。

ツンとしたようなのに、どこか甘い。

この匂い。

「茜ーーーー!手伝ってくれる?」

リビングの方からお母さんの声。

「はーい!」

たしか、今日はお父さんが遅くなるから

二人でご飯を食べる日。

声がした方に行く。

「何?」

お母さんが何か段ボールから

取り出している。私の方を見て嬉しそうに

笑う。

「お父さんがね、なんか小さい頃の
茜の写真があるかって、聞いてきたのよ。
だから、今探してるの。でもね、アルバム
が奥にあるの。」

「なんで、私の小さい頃の写真がいるの?」

お母さんの隣に座る。

「分からないわ~。まぁ探しましょ。」

能天気なお母さんの言葉に呆れながら、

奥にあるアルバムを探す。

「あった~!」

お母さんが出した段ボールの中に

懐かしいアルバムが顔を出した。

「ありがとね。」

せっかくだしたのだから、中身を見たい。

お母さんがページをめくる。

若いお母さんとお父さんに挟まれて

笑う私、転けて泣く私、

プールで遊ぶ私、友達と鬼ごっこする私…。

まだ幼い私がそこにはいた。

「懐かしいわね~。」

お母さんが嬉しそうに言う。

ページをめくっていく。

あ。

小学校の体育祭で私の隣を歩く太陽、

逆上がりを練習する太陽、

縄跳びをしてる太陽‥‥。

笑顔の太陽がたくさん。

私の隣で嬉しそうに笑っている。

太陽もやっぱり幼くて。

「可愛いね~この頃の太陽君。」

自分の子を見ているような目でお母さんが

太陽の写真を眺めている。

たしかに、可愛い。

まだ、私より小さい。

あんなに大きい手じゃないし、

たぶん声も高くて。

今の太陽とは全然違う。

大人になったのか。太陽も私も。

成長して、あの頃とは違うような道を

歩いてるのかな?