「あんたがそんな顔色悪くなってどうすんの。」


「うっ……。ごめんなさい。ありがとう。大丈夫だから続けて。」


「無理して聞くことないよ?気分良い話じゃないからね。」


「ううん。あたしが……聞きたいの。」


今目の前に居る百合さんにそんな事があったなんて想像するだけで、まるで心臓を思い切り絞られるような、そんな痛みがあたしの中で疼いていた。


でも、それよりも、百合さんが過去の痛みを隠さずあたしに話してくれる。


その事が凄く嬉しい。


だから、目を反らしたりしたくない。


ちゃんと、受け止めたい。


百合さんは、あたしを見て優しく微笑んで頭を撫でる。


「茉弘。ありがとね。」


その笑顔を見ると、胸の奥がじんわり温かくなっていく。


「んーとね、じゃあさっきの続きだけど、死に物狂いで息も絶え絶えだったあたしが辿り着いたのが、この地区だったわけ。」


「え!?夜に百合さん一人で!?それってかなり危険なんじゃ……。」


「そうだねぇ。それが丁度煌龍が出来たばっかの頃だから、一年前の今頃か。正直まだ今よりも治安が悪かったよ。恭が必死にまとめ上げてた頃だからね。

まぁ、茉弘の想像通り、その時ちょっとヤバイのに絡まれてね。もう動く気力も体力もなかったあたしは、犯される寸前だった。

もうその時は、朦朧とする意識の中、自分の人生を呪ったね。で、全てを諦めかけた。」


あたしは、カフェオレの缶を握りしめる。


缶の冷たさが、辛うじてあたしを冷静にさせてくれる。