「母親は、あたしをシングルマザーで育てて来たんだ。それまで男に脇目もくれず、ただ必死にあたしを育ててくれたわけ。
だからさ、あたしが我慢することで母親の幸せが成り立ってるってんなら、耐えようって思ってた。母親も見て見ぬふりしてたしね。」
あたし、手震えてる。
怖いからじゃない。
沸々と腹の底から怒りが沸き上がってくるからだ。
「でもある日、母親があたしに言ったんだ。
"あんたなんか産まなきゃよかったのに。"
って。ふふっ、有りがちなセリフでしょ?」
百合さんは、まるで他人事かのように笑ってる。
でも、やっぱり少し寂しい笑顔。
「でも、その時のあたしは凄いショックでさ。あたし今まで何頑張ってたんだろう?って、思っちゃったわけ。
それで夜、二人の寝てる隙を狙って、金も何も持たずに裸足で脱走。逃げてる間も、いつあの男に捕まるんじゃないかって気が気じゃなかった。死に者狂いで逃げたよ。
でも、そんなボロボロになっているあたしを気に止める人なんて誰もいなかった。
みんな見て見ぬふりをして、面倒な事に巻き込まれないように目も合わせない。
まるであたしは、この世に存在していないような……そんな気持ちになったよ。」
カタンという椅子の音で、我に返る。
百合さんは、椅子から立ち上がってミーティングルームに置いてある冷蔵庫を開ける。
そこからカフェオレの缶を取り出し、あたしの手元に置く。
「ほら、飲みな。」
「……え?」



