宿の玄関を開けると、明日の朝食の準備のいい香りがした。



私達の専用のスリッパには、各自名前が書かれていた。


私のスリッパに名前を書いてくれたのは翔太さんだった。


私は、そのスリッパを履き、ギシギシと音の鳴る廊下を歩く。




前を歩く翔太さんの背中を見つめながら。




「おやすみ!ほんまはここでおやすみのキスくらいしたい気分やけど、せっかく俺のこと一途でかっこいいって言ってくれたから、やめとくわ!じゃあな!」




私の頬を軽くつねった翔太さんは、男子の部屋へと歩いて行った。




『キスしてください』って言ったら、どうなっていたかな?



翔太さんは、キスをしてくれた?



きっと、しないよね。



私の気持ちを知らないからこそ、翔太さんは私を必要としてくれる。




私が好きだと知ったら、きっと、距離を置くんだと思う。


それが、翔太さんの優しさだから…