oneself 前編

あたしを急かす先輩の顔を見つめながら、携帯からも耳を離せないでいるあたし。


その時、電話の向こう側で、哲平の優しい声が聞こえた。


「未来、何かそっち大変なんやろ?」


「えっ…」


「ごめんな、無理言って。やっぱ今日はいいわ」


「だって、哲平…」


一刻も早くあたしを連れ戻したい先輩の視線に耐えられず、あたしは背中を向けた。


奈美に何があったかも気になるけど。


哲平は大丈夫なの?


そんなあたしの心の声が聞こえたかのように、哲平は明るい声で言った。


「友達に何かあってんろ?俺は大丈夫やから!」


「でも…」


「また明日に話すわ!じゃあな!」


「哲平!」


プーッ、プーッ…


最後のあたしの声は、哲平に届く事のないまま、電話は一方的に切られた。