oneself 前編

そう強く言われ、それ以上何も言えなかったあたしは「分かった」とだけ言い、電話を切った。


折りたたみの携帯をパチンと閉じながら、ゆっくりとドアを開ける。


あたしが迎えに行ったのにな。


哲平は仕事で疲れてるだろうし。


泊まりに行くなら、哲平のお店の方向へ、結局は歩いていくのに。


そう思いながらも、表に出て、哲平が来るのを待った。


チカチカとまばゆい光を放つ、色とりどりのネオンと、パーティーにでも行くような格好をした、綺麗な女性達。


今までこんな時間に、こんな場所にいた事なんてなくて。


これが、哲平の働くところなんだ。


そう改めて思った。


その時、あたしの鞄の中で、携帯が震えた。


慌てて取り出して、哲平からの着信だと確認し、受話器を耳にあてる。


「未来、もう外出てる?」


「うん、出てるで」


「分かった。もう着くし」


哲平の言葉に、周りをキョロキョロと見回す。


そんなあたしの目の前に、1台のタクシーが止まった。