oneself 前編

目の前に見える駅の改札口。


足を止めたあたしに、奈美はさっきとは打って変わった明るい声で、大きく手を振った。


「ほなまた月曜日な。バイバイ!」


そう言うなり、スタスタと背中を向けて歩き出した奈美を、あたしは茫然としながら見つめていた。


最近、哲平の話になると話を逸らしていたあたし。


きっと奈美は、あたしが哲平の事で悩んでいるのは、気付いてるんだろう。


けれど、詳しくは何も話していないから、あたしへの忠告だとは考えにくい。


あれは、酔った奈美の本音なんだろうか。


「男なんてさ、浮気する生き物やし、本気になるだけ損やで」


ひどく冷めた奈美の声が、頭の中をグルグル回る。


哲平は…


そんな事ないよね?


ふいに哲平と誰かが楽しそうに話している姿が思い浮かんで、大きく頭を振った。


そのまま電車に揺られながら、あたしは複雑な思いのまま、家へと急いだ。