oneself 前編

「だから、ホンマは嫌やったけど、言えんかった…」


時折相槌を打ちながら黙って話を聞いていた幸子は、あたしが話終えると、またしても長いため息をついた。


そして、幸子の口から出た言葉は、思いがけないものだった。


どこかで、それでも哲平は間違ってるって。


嫌だって言ってもいいのにって。


そんな言葉を期待してたのに。


「哲平の気持ちも分かるわ」


そう言った幸子は、不安を打ち明けてくれた時の、哲平の表情に良く似ていた。


「な…んで?」


恐る恐る聞くあたしに、幸子は軽く下唇を噛みしめた。


そしてあたしをチラッと見て、軽く耳の後ろを掻きながら話し出した。


「あたしもさ、徹にそう思う事あるもん」


あたし達のところとは逆で、幸子は社会人、徹は四大。