oneself 前編

そう言って先輩に連れられたのは、さっきの店から歩いて5分もしない、小さな定食屋さんだった。


「いらっしゃい!あ、コウちゃん、お疲れさん」


「おばちゃん、いつものやつ!未来ちゃんは、何か食べる?」


「あ、いいです」


テーブル席に腰をおろし、店内をぐるりと見渡す。


さほど広くない店内には、お客さんの姿はない。


入って来た先輩を”コウちゃん”と呼んだ、自分の母親より少し上ぐらいであろうおばさんが、カウンターの向こうでせっせと動いているだけ。


先輩は慣れた様子でカウンターに近付き、おばさんからお盆の上に乗ったおしぼりとお茶を受け取り、あたしの元へ運ぶ。


「はい」


「ありがとうございます」


二人で熱いお茶をすすりながら、あたしはどうしていいのか分からず、向かいに座る先輩の首から下を、ぼんやりと眺めていた。


体にフィットする感じの、細身の黒のスーツ。


2つくらいボタンを外した、グレーに白のストライプのシャツ。


そこから覗く、ゴツめのシルバーアクセ。


腕には高級ブランドの時計。


哲平のスーツ姿は見た事ないけど。


きっとかっこいいんだろうな。