天使は僕だけのものじゃなく。




明日の予定を取り付けた僕は、

少し浮き足立っていた。



両親が誕生日の日に帰ってくることは

ここ数年なくなっていた。


『Happy Birthday Lev!』


電話は毎年かかさず掛かってくるけど、

直接会いに来ることはない。



高校生にもなって両親に祝われたい、

だなんて恥ずかしいことなんだろう。


僕はいつまでも子供なんだ。



『16歳…か。』


とくになにもないまま、16を迎えるんだ。

普通の生活を求めていた僕に

ぴったりじゃないか。


プルルルルと電話が鳴る。


きっと2人からだ、と思うと受話器を取る手が弾む。

『もしもしレフ~?』

『お母さん、もしもし僕だよ』

『あら~元気そうでよかった。
今パパと一緒に掛けてるのよ~!
時差があるから早めに掛けちゃった!』

『そうなんだ、確かに早すぎだな』

『ごめんごめん!それよりレフ、何か面白い話ないの?もう16歳なんだから。』

『面白い話?無茶ぶりなの、それ』

『何言ってんの~、彼女とかいないかってことよ!』

『あーなんかデジャブ…』



2人は電話を掛ける度に

そういう話を振ってくる。


『残念だねお母さん。
まだガールフレンドに会えそうにないよ。』

『ほんっとに奥手なんだから。
モテるんだから一人くらい経験しときなさい!』

『親がいうことじゃないよ~もう。』



お母さんらしくて、なんだか頬が緩んだ。

それに僕はモテるわけじゃないんだけど。


『あ、そろそろお父さんがそわそわしてるから変わるわね!』

『うん。』


父は僕の誕生日になると、

いつも涙ぐんで話をする。


今年もそうだった。



『じゃあね、うん。ありがとう。
またなんかあったら掛けるよ。うん。…』


気づくととっくに0時にまわり、

僕は16歳になっていた。