「そうか。じゃあ行くぞ」
そう言って、矢崎店長はすたすたと先に歩いていってしまう。
私はそっと、自分の右手を見た。
さっき、勢いで手を繋がれてしまったことを思い出すと、ネイルをした指先が熱くなっていくような気がする。
なのに、店長は全く気にしていない様子。
はあ……もう少し照れるとか、意識してくれてもいいんじゃないですか?
「おい、早く」
「あ、はい、すみません」
手招きされていくと、店員さんに席に案内された。
イタリアンビュッフェのお店だけあって、お客さんは女の人が多い。
隣の席のおばさんたちも、料理の一番近くを陣取っているママ友集団と見られるひとたちも、矢崎店長が通ると、みんなが振り返った。
色眼鏡で見ているわけじゃないと思う。
会社の中ではカッコイイけれど、世間に出れば普通って人はよくいる。
けど、矢崎店長はやっぱり、世間の人も認めるイケメンなんだ……。
遠くから、『ほら、やっぱり彼女いるよ』なんてセリフが聞こえてきた。
彼女に見えるのかな?こんな私でも、店長につり合ってる?
店長は周囲なんかまったく気にせず、とってきた料理をぱくぱくと食べ始めた。
その手元に、思わず見とれる。
綺麗なフォークの持ち方。
サラダやパスタを口に入れるまでも、あまり音がしないし、ドレッシングがぽたぽた垂れることもない。ピザから具が落ちることも。



