「この店は、前にお前がいたところとは違うから。覚悟しておけ」
「違うって……どこがですか?」
「客層、客数、単価、すべてだ。あっちの地区みたいにまったり毎日をすごしていられると思うなよ」
つまり、このエリアは金持ち客が多くて、忙しいってことか。
噂には聞いていたけど、めんどくさそう……。
思わずため息をつきそうになった。
矢崎店長はたしかにイケメンだけど、ときめく以前に怖い。
相手を威圧しようとするオーラが、全身から漂っている。
テレビでイケメンを見るのは好きだけど、実際に付き合うのはイケメンでなくても性格が良ければよい、むしろイケメンじゃない方がいい。
昔の経験から、イケメンは信用できないと思っている私にとって、矢崎店長は既に敵でしかなかった。
髪の間から、角が見えそう。鬼だよ、鬼。
でも、この人を味方につければ……。
私は思い切って、矢崎店長に作り笑顔で話しかける。
「あの、なんでドアは開いていたのに、警報解除されてなかったんですか?」
すると、矢崎店長は面白くなさそうに答える。
「ゴミの日なんだよ」
そう言うとまた私の横を通り抜け、二階への階段を昇っていく。
戻ってきたかと思うと、その両手には燃えるゴミと思われるビニール袋が。
「気がきかないやつだな。そこ開けろ。それに加工台のところにもゴミが置いてあったろ。持ってこい」
「は、はい」



