「あ……店長!試験、頑張ってくださいねー!」
遠くから手をふると、店長は焦った様子で周りを確認し、口パクで『バカ』と言った。
大声を出すなという意味だろう。
私はそれ以上怒られないように、駅までの道を走って逃げた。
前髪がぱっくり分かれちゃってもいい。
汗でメイクが崩れてもいい。
叫びたい衝動を体に任せて、多分大人になって初めて、全力で走った。
明日からのお店のことは心配で、そのことを考えると憂鬱になるけど、今はそれよりも。
矢崎店長の色んな表情が頭の中をくるくる回って、仕方がない。
ああ、幸せで、切なくて、胸が破裂しそう。
どうしよう。どうしよう。
こんなに好きになっちゃった。



