「俺は俺の仕事をしただけだ」
「でも、試験勉強で忙しいはずなのに、平尾さんのことまで調べてくれたんでしょう?」
「お前のためじゃねえよ。毎月の売上を見てて、おかしいと思ったから調べただけだ」
それでもいい。
他の店長なら見てみぬふりをするだろうことに、こんなに一生懸命対処してくれた。
そこに特別な感情がなくても、嬉しいことに違いはない。
「それでも、嬉しかったです」
店長が私の味方なら、まだ頑張れます。
思わず微笑むと、店長の茶色の目が一瞬丸くなった。
どうしたんだろう。
首をかしげると、店長はそっぽを向いて、額を押さえた。
「メガネ外して……そんな顔、すんじゃねえよ。俺が、セクハラしそうだ」
「えっ?」
「とにかく、早く帰れ。うろうろ寄り道して変な男に捕まるなよ。知らないおやじについていくんじゃねえぞ」
店長はそう言うと、まったくセクシーじゃない手つきで、ぱんっと私の背中を叩いた。
なによそれ。ひとを子供みたいに……。
駅までの道を少し歩いて、お店の方を振り返る。
すると店長は壁にもたれてタバコをふかしていた。
こちらに気づき、犬を追い払うように手を振る。
唇の動きで、「しっしっ」と言っているのがわかった。



