「キーはまだ渡してなかったから、仕方ないとしよう。けど、電話にも出られないとはどういうことだ。お前、入社3年目だろう。まさか、いままで路面店に勤めたことがないとは言わないよな?」
うちの会社のメガネ店は、独立した店舗を構える路面店と、商業施設の一角を借りているインショップがある。
インショップは商業施設の閉店と共に、店の前にネットを張ればいいだけで、警備システムは入っていない。
「すみませんでした」
謝ると、男の人は名札入れを私の胸の前に差し出した。
それにはすでに、私の名前の名札が入っていた。
「店長の矢崎だ」
おお、この人が……。
確かにイケメンだけど、なんかとっつきにくそう。
彼は名乗ると、よろしくと言うこともなく、さっと一枚の紙を取りだした。
「ほら、今月のシフト」
目の前に出されたそれは、新しい出勤表みたい。
「休みの希望はないと前野店長に聞いたから、適当に入れておいたから」
前野店長とは、閉店してしまった店舗でお世話になった関西弁の店長の事だ。
そういえば、私が休みの日にシフトの件で電話がかかってきたと言っていたっけ。
特に希望がなかったから、そのままにしておいたけど……。
ちらっとシフト表を見て、ホッとする。
当然だけど、私と店長の休みがずれている日が何日かある。
店長が休みの日は、のんびりさせてもらおう……。
私は既に、店長の目を盗んで楽をすることを考えていた。



