次の日……。
「あっ!」
ステンレスの流し台を見て、ハッとした。
いつもお店に持っていっている水筒とスープジャーを入れたトートバッグがない。
昨日ぼーっとしてて、忘れちゃったんだ。
夜もコンビニ弁当を食べて、バッグの中身なんかそのままで倒れるように寝ちゃったもんなあ。
なければないで、コンビニにお弁当を買いに行けばいいのだけど……。
もし運よく店長が暇だったら、自然な流れで『試験頑張ってくださいね』と言える。
「って、私は中学生か!」
そんなこと私がわざわざ言わなくても、あの店長のことだ。試験なんか楽勝だろう。
ただ、自分が店長に会いたいだけ。
「重症じゃないの……」
と言いながら、足が勝手に動き、洗面台に向かう。
顔を洗ってメイクして、黒目コンタクトして……。
「あ、今日はメガネいらないんだった」
服も、いつもの仕事用じゃなくて、もっとカジュアルなものでもいいかも。
と、背中にチャックのついた膝上丈のワンピースを選ぶ。
アクセもあまり子供っぽいモノより、シンプルでオトナっぽいモノの方が、店長は好きかなあ。
姿見の前でくるりと回る自分に気づいて、脱力した。
バカみたい、私。
休日に忘れたスープジャーを職場に取りにいくだけなのに、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
「まあいいか!そのままどこかに買い物に行こう」
出かけるついでだし、と理由を後付して、部屋を出た。



