「椎名さん、お客様」
矢崎店長がフロアから、加工台のところにいた私を呼ぶ。
しまった、ぼーっとしちゃってた。
慌てて駆けよっていくと、お客様に少し曲がってしまったメガネの型直しを頼まれた。
承知して裏に持っていくと、なぜか平尾さんが寄ってきた。
「ねえ、杉田さんにセクハラされたって、本当?」
びっくりして、メガネを落としそうになる。
「長井くんに、なにかあったら助けてあげてって言われちゃった」
長井くん……気を遣ってくれたんだ。
「長井くんって、はっちゃんのこと好きなのかなあ」
知らないよ。私、仕事しなきゃならないんだけど。
わかってるはずなのに平気で話しかけてきて、いったいどういう神経してるんだろう。
イライラして、思わずそっけなく答えた。
「それはないですよ」
「ふうん……」
ええと、曲がっているのはプラスチックのフレームだから、ヒーターで温めて、手で直さなきゃいけない。
「はっちゃんって、いいね。何もできないのに可愛いだけで、お姫様あつかいで」
ケンカ売ってるの?くだらない。もう黙ってくれないかな。
私は無視して、メガネに向き合う。
ヒーターで温めるなら、熱に弱いレンズは外しておかなきゃ。
私は平尾さんを無視したまま、レンズに右、左と印を打つ。
さて、注意してレンズを外そう。



