それでも黙ってしまうと、店長は一つ小さなため息を落として言った。
「何があったか知らないけど、お客様にはお前の事情は一切関係ないんだから。暗い顔で接客すんじゃねえぞ」
「は、い……」
それはそうだ。
親が死のうと、失恋しようと、そんなのお客様には関係ない。
気持ちよく買い物をしたいだけなのに、暗い顔の店員に接客されたくなんかないだろう。
わかっているのだけど、胸がずしりと重くなった。
そのとき、加工機が止まった。
「つぎ、左セットして」
店長の指示が飛ぶ。
「はい」
注意して左のレンズをセットして、スタートボタンを押す。
「じゃあ、右レンズの面取り。こっちの練習用で練習してからやれ」
練習用のレンズを渡される。
教えられるまま、電動の砥石に尖った角を当てると、面が取れすぎて、太ーい線ができてしまった。
「力入りすぎ。こうだ」
店長は私の後ろに回ると、そっと私の手に自分の手を添える。
突然の事態に、思わずレンズを落としそうになった。
けれど、店長が私の指先とレンズを支えていたから、落下はなんとか免れた。
「そっと当てるだけでいい」



