「二人とも、お客様がいらっしゃったから、そろそろ出てきてもらっていいかな?」
少しいら立ったような杉田さんの声が聞こえた。
いけない。そういえば今日は平尾さんがお休みで、私たち3人だけだった。
慌ててお店に出ると、ちょうど三人のお客様が。
「お待たせいたしました!お受け取りですね。ありがとうございます」
引換証を渡してきたお客様をフィッティングカウンターに案内する。
一度出来上がったメガネをかけていただくと、少し幅が狭いみたい。
微調整をするために加工台にまわり、工具で幅を広げた。
そのとき、ふと長井くんの茶髪が目に入った。
そういえばさっき、彼は何て言おうとしたんだろう?
ぼーっとしそうになり、慌てて首をふった。
新しいメガネを傷つけたらとんでもないことになる。集中しなくちゃ。
その後、長井くんが菜穂さんのことを語ることはなかった。
メガネ拭きを干しに寮に上がると、ソファもテーブルも綺麗に片付いていて、矢崎店長の姿はなかった。
居ない方がホッとするはずなのに、なぜか今日はそれがとても寂しいことに思える。
……なんて、私、どうしちゃったんだろう……。



