深くお辞儀をし、女性をお店の外へ送り出す。
その背中が見えなくなったら、いそいでお店の中に戻る。
顧客カードに商品の情報が正しく書きこまれているかを確認し、高価なフレームをケースに入れ、『レンズ注文未』と書かれた加工台の奥の収納ケースにしまった。
はあ、疲れた……。
あの人ひとりに1時間もかかっちゃった。怒られるかも。
幸い、次に待っているお客様はいない。
少し休もうと、棚に置いてあったペットボトルを開けてしゃがみこむと……。
「ハツ、台帳書いたか?」
閻魔大王の声にハッと顔を上げると、加工台の向こうから店長がのぞきこんでいた。
カウンターの中の高額商品が売れた場合は、台帳に記入しなければならない。
そんなこと、すっかり忘れていた。
「すすす、すみませんでしたぁっ!」
蓋を閉め、慌てて立ち上がる。
台帳はたしか、壁際の天井に括りつけの棚に入っていたはず。
加工台のいすに靴を脱いで上がり、棚を開けようとした瞬間……。
ずるりと、恐ろしい音がした。
すっかり失念していたんだ。慌てるあまり、椅子の足にコロコロ転がるキャスターがついていたことを。
椅子の足が、ぐるんと上に上がる。
その上に乗った私は、宙に放り出された。
巻いた自分の毛先が、視界に映った。



