「いらっしゃいませ」
私が声をかけたのは、初老の女性だった。
その手には、株主優待券と思われるものが。
「こんにちは。あのね、最近近くが見えにくくて。遠近両用をと考えてるんだけど、なにせ初めてなものだから」
「そうですか。では、先に視力をお調べいたしましょうか?」
にこりと微笑みかけると、少し緊張していたようだった女性は、ホッとしたような笑顔を浮かべた。
「ええ、お願いするわ」
よく聞いてみると、老眼鏡は前にも作ったことがあるというので、前回のデータをパソコンで出し、参考にすることに。
「それほどすごい度じゃなさそうだな。最初の遠近なら、少し軽めでいいと思う」
背後からデータをのぞきこんだ矢崎店長が、ぼそりと言う。
そしてそのまま、自分が接客しているおじさまの元へと歩いていった。
「それくらいわかっていますよーだ」
お客様の奥様が、店長にみとれている。
それを知ってか知らずか、店長はたかーいフレームをおじさまにかけさせ、『こちらなんてどうでしょう。お似合いだと思いませんか、奥様』なんて爽やかに笑いかけている。
決して押し売りはしない店長だけど、あれは一種の詐欺だと思う。
奥様は店長の言うことに満面の笑顔でうなずき、高いフレームと高いレンズを買うことを了承していた。



