「だけど、初芽を巻き込んだことだけは許さない。このことは父に報告する」
「や、やめてくれ、それは……」
父?なんでいきなり、ここで俊のお父さんが出てくるの?
さっぱりわからない私とは違い、地区長は顔を真っ青にしている。
「お前もだ、大久保。今後、日本では働けなくしてやる。パパに頼んで、中国でいい仕事を見つけてもらえ」
「そんな!」
悲鳴のような声を、菜穂さんがあげた。
えっと……いったいどういうこと?
「初芽に謝罪をしろ。お前らのせいで、どれだけ会社にいづらかったと思うんだ」
俊が威圧的に見下ろすと、二人は震えながら、私の方に頭を下げた。
「も、申し訳、ございませんでした……」
「よし。じゃあ、俺は行く」
「ちょっと待って。今のこと、お父上には……」
すがるように、地区長が顔を上げる。
「……謝罪すれば許してやるなんて、誰が言った?」
にやり。
俊は心の底から楽しそうな笑顔で、地区長に笑いかけた。
その笑顔は、ぞっとするほど綺麗で、冷たい。
「お、鬼!」
「そりゃあ、最上級の褒め言葉だな」
どっかの新撰組の副長みたいなこと言ってる!
言葉を失う三人を置き去りにし、俊は私の手を引いて店を出ていく。
「あれっ?店長にはっちゃん!なんで?どして?」
途中で、待ちぼうけしていた長井くんに指をさされた。
「あっちに三浦のおっさんがいる。たっくさん金持ってたから、おごってもらえ」
「は?意味わかんないっす!」
「はは、じゃあな。初芽はいただく」
俊は怪盗のようなセリフを残し、長井くんの向かいに置いてあった私のバッグを持つと、店をあとにした。



