「ごめんなさい……私のせいで……」
あのとき、泊まったりしなければ。
長井くんにお願いするか、満員のバスでも無理やり乗って、なんとか家に帰るべきだったんだ。
タクシーだって、夜中まで待っていれば、一台くらいつかまったかもしれないのに。
心の中に俊といたい気持ちがあって、私はそれに負けたんだ。
ばれなければいいとどこかで思って、俊の厚意に甘えたから……。
「お前のせいじゃない。酒を飲んだのも俺だし、お前を引き留めたのも、俺だ」
うつむいた私の頭を、俊が優しくなでるから。それだけで、涙が溢れそうになる。
「ごめんね、ごめんなさい」
「謝るな」
「だって!」
見上げた私を、俊は優しく引き寄せる。
「誰にやられたかしらねえけど、これは俺が周りに敵を作りすぎた報いがきただけだ」
「そんな」
「しょうがねえよ。別にどうしても北京に行きたいわけじゃなかったし、降格したってかまわない」
嘘ばっかり。じゃあどうして、毎日鬼のような顔で頑張っていたの。
自分の部屋じゃなく、リビングで寝てしまうくらい疲れ果てて。それだけ勉強したのは、何のためだったの。
「そんなこと言わないで。そんなに簡単に負けを認めちゃう俊なんて、俊じゃない!」
自分のやってることは絶対に正しい。だから、黙ってついてこい。
そんなワンマンな俊は、どこに行ってしまったの?
見方によれば、あなたは傲慢で嫌なやつだよ。
だけど、私にとっては、最高の上司だったんだ。



