「お願いします。店長、徹夜で中国語の勉強をしているんです。それに、私みたいなダメな社員を、見捨てないで育ててくれたんです」
「椎名」
「他の店長は、私を甘やかすか、諦めて放置するかどっちかでした。矢崎店長だけが、真剣に向き合ってくれたんです」
「もういいよ、椎名」
「お願いします!私が責任を取って辞めます。だから、お願いします……!」
深く頭を下げても、聞こえてくるのはため息ばかり。
「椎名さん、あなたが辞めたって、矢崎くんの不祥事の責任を取ることにはならないよ。それくらいわかるでしょう」
呆れたような部長の声が聞こえ、おそるおそる顔を上げた。
「もちろん、このままこの店にいてもらうわけにはいかないから、来週早々に元の地区に帰ってもらうよ」
突然の異動。だけど、それは仕方がない。
「わかりました。でも、矢崎店長は?」
「矢崎くんは、人事部から指示があるまで謹慎。降格で地区外異動も覚悟しておくように」
それは、杉田さんと同じような扱いになるってこと?
「そんな……」
せっかく、昇進試験に受かったのに。
海外店舗の立ち上げリーダーに選ばれるなんて、普通の地区長だってそうそうないチャンスだったのに……。
「じゃあ、僕たちは行くよ」
部長と地区長は忙しいようで、さっさと部屋を出ていった。
静かになった寮に、私と俊だけが残される。



