「あと、一か月かあ……」
あと一か月で、俊はこの寮からいなくなってしまう。
いつも見ていた営業スマイルも、こわーい怒鳴り声も、お店からなくなってしまう。
寂しい、と言いかけてこらえた。
重い女になっちゃいけない。
いつでもどんとかまえて、明るく笑って……俊が甘えられるような、頼りがいある女にならなきゃ。
簡単な夕食を終えたあと、再びスマホを見る。
けれど、まだ雨は降り続いていて、電車は運休したまま。
「観念して、泊まる用意すれば。風呂使っていいぞ」
と、俊が自室から自分の部屋着を持ってきて、私に放る。
このままだと、終電の時間になっても電車は動かなさそう。
明日、早朝にここを出て、一度帰って、着替えてメイクしなおして、出勤して……うう、大変だなあ。
ため息をつきながら、黒目コンタクトを取って、シャワーを借りることにした。
お湯で落ちるメイク下地やアイライナーを使ってて良かった……。
ここが寮じゃなかったら、私用の化粧品やシャンプーを置いておくんだけどなあ。
そんなことを思ってもどうにもならないので、仕方なく俊の男性用シャンプーを借りたら、髪がキシキシいうようになってしまった。
つけまつげも取れて、とってもシンプルな……いや、正直に言おう。可愛くない状態です!
「うう……」
しかも、俊が貸してくれたのは、なんともシンプルなグレーのスウェットの上下。
ネズミになった気分で、フードをかぶって顔を隠しながらリビングに戻ると、俊に指をさして笑われた。



