「っとにあのジジイ、昔世話になったからって……」
ぶつぶつ言いながら、あっと言う間に上半身裸になってしまう。
私は目のやりどころに困り、適当にバッグを置くと、ソファに座ってうつむいた。
やがて背後で彼が歩いていったと思うと、浴室のドアが閉まり、シャワーの音がしてきた。
私はホッと安堵すると、寮の中を見回す。
いつも昼休憩で使っているスペースが、今は別の場所に見えた。
ぼんやりしていると、ギュウとお腹が空腹で鳴る。
「そうだ。今度こそ、ご飯を作らなきゃ!」
この前うちに襲撃されたときは、俊に朝ごはんを作らせてしまった。
今日こそは、私が作らなきゃ。
慌てて立ち上がり、まず俊が脱ぎ捨てていったスーツを、部屋の片隅にあった部屋干し用の小さな物干しにかける。
そして、冷蔵庫を開けてみるけど……。
「……なんもない!」
冷蔵庫の中は私が作って持ってきたおかずのタッパーと、水、コーヒー、マヨとケチャップ……のみ。
そんなまさか。
野菜室を開けてみるけど、見事に何も入ってない。
最後の望みをかけて冷凍庫を開けようとした瞬間、背後から声がした。
「なに人んちの冷蔵庫あさってるんだよ」
「きゃあ!」
びくっとして振り向くと、俊が濡れた髪をタオルで拭きながら、こちらを見下ろしていた。
黒いTシャツから普段は見えない鎖骨がのぞいていて、どきりとする。



