「しまったな。あいつに無理やり飲まされちまった。運転ができない」
「それより、早く着替えた方が……」
「着替えより、お前を無事に返す方が重要に決まってるだろ」
俊は濡れたまま、手だけを素早く拭くと、自分のスマホを取りだす。
「タクシーを頼むしかないよな」
そんなの、後で良いのに……。
寮にあがり、脱衣所にあったタオルを持って戻ると、俊は渋い顔をしていた。
「ダメだ。どこの会社も、全部出払っちまってるらしい」
そりゃあ、こんな豪雨だもん。みんなタクシーを使おうとしてるよね。
「どうしよう」
「仕方ない。電車が動くまで、ここで待機だ」
「動かなかったら?」
「……泊まっていくしかねえな」
そっか、そうだよね。って、ええ!?
「それって、ダメなんじゃ……」
基本的に、寮は男子専用。
昼間に女子社員が休憩を取ったり、地区会議で女性の店長が入るのはOKだけど、プライベートなお泊まりは絶対にNGだったはず。当たり前だけど。
「そんなのわかってる。けど、他に行く手段もなけりゃ、お前を外に放り出しておくわけにもいかないだろ」
そりゃあそうだ。私だって、今勝手に帰れって言われたら泣くと思う。
「じゃあ、お世話になります」
「おう。雨が止むことを祈ってろ」
寮に上がり込むと、俊はさっそく濡れたスーツを脱ぎ始めた。



