「子供が40度近い熱が出ちゃったみたいなんだ。嫁も体調が悪くて、俺しか病院に連れていけないんだけど、早退してもいいかな」
そういえば、杉田さんの実家は九州だっけ。
頼れる親もいないんじゃ、大変だろう。
俊をちらっと見るけど、まだまだ接客が終わるまでに時間がかかりそうだ。
「大丈夫ですよ。店長には言っておきます」
「ありがとう。じゃあ、頼むよ」
杉田さんはカバンをつかむと、急いで店を出ていった。
ああしてると、ただのいいお父さんなんだけどなあ……。
「ひどい雨だな」
杉田さんが帰った30分後、やっと接客を終えた俊がお店の外を眺めて言った。
短時間で終わることを期待した雨は、まだ降り続いている。
「近くの川が氾濫しないといいですけど……」
「そうだな。ハツ、お前も早めに帰るか?」
「それがいいよ。はっちゃん、電車が止まっちゃう前に帰りなよ」
俊と長井くんが心配してくれる。
じゃあ、帰った方がいいかなと思ったとき……。
プルルルル、と社内用のケータイが鳴った。
「はい、八幡店長井です」
長井くんがそれを取る。
その間に、お客様がやってきた。
「げっ」
自動ドアの前のその人を見て、俊が眉間にシワを寄せる。
「よう、久しぶりだな矢崎。元気にしてたか?」
入ってきたその人は、中年のおじさんだった。



