夕方になると、雨が降りはじめた。
「天気予報では雨だなんて一言も言ってなかったのにねえ」
補聴器の電池を買いにきたおじいちゃんが、空を見上げてぼやいた。
初めは点だったアスファルトのシミが、あっという間に広がっていく。
「ゲリラ豪雨かな。すぐにやむといいけど」
「ほんとだよ。私、傘持ってこなかった」
「夜まで降ってたら、俺が送って……なんて、もう言っちゃダメだったね」
長井くんが、俊のいる方をちらっと見て言った。
彼にはとても心配をかけたので、俊の浮気はただの勘違いだったこと、ちゃんと仲直りしたことは報告してある。
ずっと微妙な表情で聞いていたけど、結局は『仲直りできて良かったね』と言ってくれた。
「でも北京と日本の遠恋なんてさ、大丈夫なの?」
俊はお客様の相手をしている。
長井くんは、そっちに聞こえないようにごく小さな声で私に聞いた。
「うん……不安だけど、なんとかやってみるよ」
もっと遠方の国と遠恋してる人だっているし、なんとかなると自分に言い聞かせる。
俊が北京に行くことはおめでたいことだし、私も元気に送りだしてあげなきゃ。
「あのさ、二人とも。ちょっといいかな」
背後から杉田さんの声が聞こえ、振り向く。
彼は折り畳みケータイを持って、おろおろしていた。



