「何か飲む?」
「けっこう。それより、話を」
備え付けのペットボトルの水を沸かしてコーヒーを入れようとする大久保を制止する。
彼女は口をとがらせ、つまらなさそうな顔をした。
「そんなにあの子が大事なの?」
ぼす、とベッドに座る大久保。
俺はテレビの前のソファに座った。
「早く話せよ」
「せっかちね。いいわ。今日、異動の話と一緒に聞いたことよ」
そう前置きし、彼女は初芽に対する誹謗中傷が社内でまことしやかに囁かれていることを話す。
「はあ……」
バカバカしいこと、この上ない。
初芽が俺と寝て、杉田さんや平尾さんを店から追い出すように指示しただと?
いち店長の俺にそんな権限があるわけないじゃないか。他の店長も誰も信じないだろう。
そういうことを言って面白がるのは、たいてい女だ。
「初芽ちゃん、可哀想に。へこんでいるでしょうね」
そりゃあ、あいつは俺みたいに神経が太くない。
「けど、噂はすぐに消えるさ」
俺はどうかしていた。
冷静さを失ってこんなところまでついてきてしまったけど、素人ができる嫌がらせなんて、しょせんそんなもんだよな。
「それだけなら、帰る」
さっと立ち上がると、大久保も焦ったように立つ。
「北京なら、私を連れていってよ」
「は?」
いきなり、何を言いだすんだろう。
呆気にとられてうっかり聞き返してしまった俺に、大久保は必死で訴えかける。



