閉店の時間になり、長井が何故か急いだ様子で店を出ていった。
平尾さんも、いつも通りに帰っていく。なんとか心の整理をつけてくれたのだろうか。
二人が出ていった後、スーツのままで、期限の近い書類を作成することに。
さっさと終わらせて、明日の閉店後には初芽に異動の話をしなければ。
書類ならば寮でやってもいいのだけど、資料は全て店にある。
移動が面倒なので、一階の店で作業してしばらく経ったとき。
こんこん、と店の自動ドアがノックされた。
お客さんか?
メガネが曲がったとか壊れたとかの緊急事態で、ほとんど電気が消えているのに、人が残っているとわかるとこうして突撃してくる客が、年に1回はいる。
めんどくせえなあ。
ふとそちらに顔を上げると、ドアの向こうには女が立っていた。
それは、やたら長い髪を一昔前の巻き髪にしている女。大久保菜穂だった。
なんでまた現れた?気味が悪すぎる。
とにかく、店の正面でトラブルを起こされては困る。
俺はため息をつき、裏口から出ていった。
「こんばんは」
大久保は笑顔で挨拶をしてくる。けれど、客でもないやつに売る愛想は俺にはない。
「何の用だ」
「矢崎くんを、お食事に誘おうと思って」
だからって、こんな夜中になぜいきなり突撃してくるんだ?



