「占い師に『運命の人に会える』って言われて、それ信じて、鬼のような店長の元でも我慢して、頑張るなんて。本当に馬鹿だと思った。でもその馬鹿さが、逆に純粋に思えたんだよ」
今まで聞いたことのない、優しい声が耳元で囁く。
「好きだ……初芽」
まるでそれは麻薬のように、とろりと耳から侵入し、私の心の芯を溶かしていく。
矢崎店長が、私のこと、好きだって言った……。やっと、言ってくれた。
「異動したら、きっとこれきりになってしまう。それは嫌だと思う自分に、試験の後で気づいたんだ。だから……少しの間でも、一緒にいたかった。それで、お前さえ良ければ……」
「よけ、れば……?」
「遠恋でもいい、続けられればと思ってた。決心がついたら、近くにきてほしいと」
近くにって……私が、愛知まで追いかけていってもいいってこと?
「でも、お前は早く結婚して辞めたがっているみたいだったし、最初から異動の話をしたらひかれると思ったんだよ。卑怯だった。ごめん」
矢崎店長はもう一度謝ると、額を私の肩に預ける。
ずるい。こんなふうに謝られたら、もう怒れないじゃない。
「そんなに、私のこと、好きだったんですね?」
「うん」
うん、とか言うし。
なにこのひと。
年上で、仕事中は鬼のようで、ワンマンで、威張り散らしているくせに。まるで子供じゃない。



