「どうしてそれ、先に言ってくれなかったんですか?」
責めるような口調になってしまうと、矢崎店長の手が、私からそっと離れていった。
そして、私の背後にあった歩道橋の柱にもたれかかるように押し付ける。
私は店長と柱の間に挟まれるような状態に。
どきりとする間もなく、店長が私のおでこのあたりで、小さな声で話し出した。
「言ったら、断られると思ったんだ。ごめん」
「え……?」
「地区長試験、かなり手ごたえがあったんだ。その帰り、なぜかお前の顔ばかり浮かんで」
そう言えば初デートに誘われたのは、試験から帰ってきた日だった。
「手がかかる部下だけど、何て言うのか。バカな子ほど可愛いってやつか」
「ひどい」
「褒めてんだよ。今までの女子社員は、やたらと媚を売ってくる奴か、『厳しくてついていけない』って退職や異動していく奴か、どっちかしかいなかった。でもお前は、違った」
矢崎店長がまた一歩、距離をつめる。
私は追いつめられ、背中をぺたりと冷たい柱にくっつけた。
その肩にあごを乗せるように、店長が寄り添う。
息が首にかかって、くすぐったい。
「動機はバカバカしくても、俺の元で食らいついてなんとかやってるお前が、気になって仕方がなかった」
「動機?」



