「あ、この子が新しい子?」
「そう、はっちゃんだよ」
パートさんが長井君と親しげに言葉を交わす。
それが聞こえているはずなのに、矢崎店長はすたすたと歩きだし、低い声で、まるでみんなを脅すように言った。
「朝礼を始める。集合」
それ以上何も話さず、私たちは接客カウンターの前に立った店長の前に整列する。
うう、まるで軍隊みたい……。
「本日異動してきたやつ、挨拶」
「はい、椎名初芽です。入社3年目です。よろしくお願いします」
頭を下げると、店長が茶色のメガネの先輩を指す。
「次席の杉田さん」
「よろしくお願いします」
杉田さんは、にこりと微笑む。
矢崎店長と違い、目も眉も山型で、優しそうな印象。
次席ってことは、店長の次にえらい人か。
年下の、しかもあんな偉そうな店長の元で働くのって、大変そうだな……。
「長井は知ってるみたいだから飛ばす」
同期の長井くんは、『ひどい』という顔をしたけど、口には出さなかった。
よほど矢崎店長を恐れているんだろう。
「パートの平尾さん」
「よろしくお願いします」
平尾さんは、微笑んで会釈してくれた。
そのメガネの奥の小さな目が、店長がいるところでは余計なことは言わないけれども、実はけっこうおしゃべりよ……と、言っているような気がする。



