たしかに、店長に友達がいるという話は聞いたことがない。
普段は店と寮とコンビニくらいしか行き来してないみたいだし、休みも寮にいることが多い。
まあ、大人になってから地元を離れて寮に入っているんだから、こっちに友達がいなくても不思議じゃないけど。
「ここの店員は、客のプライベートに口出しするのか。暇なんだな」
「あら、あなたはお客様じゃないでしょ?相変わらず仕事熱心ね、矢崎君は」
競合店調査だってわかってる?
このひと、やっぱり……。
「行こう」
店長が私の手を引っ張る。
私は何も言えないまま、店から出ることに。
最後に見た大久保さんの目が、まるで挑戦するようにこちらに向けられていた。
あれはきっと……あのひとだ。
「あのひと、大久保菜穂さんですか?」
そのままモールを出て、送ってくれるというので店長の車に乗り込んだところで、聞いてみた。
運転する横顔のまま、店長は眉をひそめる。
「知ってるのか」
「あ……長井くんが教えてくれたんですけど」
「そうか」
どこまで知っているかとは、彼は聞かなかった。
矢崎店長は少し黙ると、また話しだす。
「めんどくせえやつに見られちまったな。まさか、あんなところにいるとは」
やっぱりあの人は、菜穂さんなんだ。
「ご結婚はまだのようですね」
名札が変わっていなかったし……って、辞めるって言って、まだ3か月も経ってないんだから、まだしていなくて当然か。



