「ふらっと立ち寄るにはいいですね」
「そうだな」
あまり店員にベタベタされると、ちょっと見に来ただけのお客さんはひいちゃうもんね。
そうしてメガネを見るふりをして、店長は検査室やフィッティングの様子をちらちら見ていた。
すると、その横顔が一瞬固まる。
どうしたんだろう?
「よし、だいたいわかった。行こう」
「え?あ、はい」
慌てて試着していたメガネをはずし、元の場所に返したときだった。
「いらっしゃいませ」
とうとう、店員さんに声をかけられた。
顔を上げると、背が高くて髪の長い女の人が微笑んでいた。
「せっかく来てくれたのに、もう帰っちゃうの?矢崎君」
彼女は私の肩越しに、矢崎店長を見ていた。
矢崎君──その呼び方にどきりとする。
「……ああ、調査は終わったからな」
矢崎店長は彼女と目を合わせようとしない。
そっと彼女の白シャツの胸についている名札を盗み見ると、『大久保』と書いてあった。
大久保……どこかで聞いたことがある。どこだっけ。
「お連れ様は……彼女?」
ちらっとこちらを見た大久保さんの目が、すっと細くなった。
明らかに歓迎されていない空気を感じて、少し背中が寒くなる。
このひと、もしかして……。
「違う」
「あら……じゃあ、お友達?寮暮らしのあなたに、こんな可愛いお友達がいるなんて意外だわ」



