『泣くことは、恥ずかしいことなんかじゃないよ』
彼は、何でもお見通しだった。
「泣いてません」
けど、嘘を吐き続けなきゃいけない。
「泣いてません。泣いてないので、心配しないで下さい」
泣けば、彼は来てしまう。
動かない足を無理に動かして、私の涙を拭いに来る。
「泣いてない、泣いてないから……、大丈夫です、から」
私のせいでそうなったのに、これ以上、彼に苦しい思いをさせたくはなかった。
私のことだから、苦しくない痛くないと彼は言うけど、彼の感覚は正常だ。
傷つけば血が出る。風邪も引く。ちょっとしたことで怪我もする。
そんな彼の苦痛がなくなるわけがないんだ。
今もそう。きっと、苦痛で顔を歪めながら、外まで抜け出して、通話してくれている。
私が泣いていると思って、慰めてくれている。
『雨音……』
何か言いかけた彼の声を、強制的に切った。
これ以上は、泣き喚いてしまいそうだったから。
彼の声を聞くたびに、「寂しい」と返してしまいそうだったから。


