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彼がいない、初めての夜。
同棲する前は、一人で寝ることなんか当たり前だったのに、一度覚えてしまった習慣が忽然となくなってしまうことに、私は順応出来ていなかった。
寝室のベッド。隣に彼がいないから、彼の枕を抱いていた。
時計の音が、やけに大きく感じられる。
普段は真っ暗な中眠るのに、今日は小玉電気をつけて、ほんのりと明るい寝室。
一人って、こんなにも心細いのか。
何度目かとなる寝返りを打ったとき、スマホが鳴った。
時計を見る。深夜一時。
ディスプレイ見ずとも、誰からかかってきたのかは手に取るように分かった。
「病院に迷惑かけないようにって、言ったのに」
『迷惑かけないように、こっそり抜けた』
いたずらっ子のそれに近い口調で、屁理屈をいわれてしまった。
『今、病院の非常口から抜けて、外にいるんだけど。メリーさんごっこに付き合ってもらえるかな?』
「嫌です。戻って下さい。治るまで背中に立つこと禁止」
抜け出して、私のもとまで来るという彼に強い口調で言った。
『分かったよ。二週間とは言わず、三日で治せるようにするから。電話ぐらい、付き合って。見回りの看護師さんは、後30分は来ないから』
「だからどうして、分かるので?」
『頑張った。雨音、眠くないか』
「眠いですよー。スマホで起こされたのは久々です」
『そう。じゃあ、寝落ちするまで通話しようか』
「ぐー」
『もうちょっと、粘ってよ』
「あなたは眠くないので?」
『眠れない。雨音が眠らないのだから、眠れない』
「……」
『カメラ、切ったみたいだね』
「恥ずかしい姿、見られたくないからです」
答えた瞬間、吐息のような笑い声が聞こえた。


