ーー
ともあれ、彼と走る。
10分でバテた。
「ぜえ、ぜえ」
「はい、雨音」
渡された水を飲む。
息一つ切らしていない彼に水を返せば、当たり前のように飲んでいた。
「やっぱり、走り続けると結構疲れるね。ウォーキングにしない?」
「体操のお兄さんみたいな顔で言いますか……」
疲れ知らずの彼。これで仕事をしてきた後なのだから、凄い。
「明日も仕事なのに。いいんですか、私に付き合ってもらって」
仕事終わりは家で一息ついて、そのまま寝たいものだろう。なのに健康体の彼はやらなくていい体力消耗を行っている。
「ランニングは、私のワガママなのですから、あなたがするなと言えば」
「君を部屋に閉じこめているのも俺のワガママだから、おあいこだよ」
困ったように笑われた。
「雨音はあの時以来、一人で部屋から出ることはなくなった。安心する一方で、罪悪感もあるんだ。おかしな話だけど。少しでも、その穴埋めをしたくてね」
あの時ーー私が一人で買い物に行った時のことだ。彼の取り乱しようと、あの顔が忘れられなくて、外に出たい気持ちもかき消される。
互いを結ぶのは、この赤いリボン。
仮にも私が、このリボンを外して、彼から離れたら、どこまでも追ってくるのだろうか。
「これで、首を吊るかもね」
『愛する人から別れを告げられたのなら、その場で首を吊れ』
いつかの言葉が重なった。
「追って、来ないので?」
「どこまでも追い続ける気でいたけど、捕まえた後のことを考えて怖くなった。多分、雨音を人間扱いしなくなる。泣かれても、叫ばれても、無視して、俺のしたいことをしてしまう。一生、あの部屋で」
だから、そうなる前に命を絶つという彼。
その宣言。想像した瞬間に、彼に飛びついてしまった。
これでは逆だ。
彼が、行ってしまうのではと、私が捕まえている。
私がいなければ、脆い人。
こうして近くにいるから、そんなこと言わないでほしい。
「私は、あなたが……!」
いい加減、分かってもいいのに。
私だって、あなたを同じぐらい愛しているのだから。


