~先生目線~


昼休みにコーヒーを飲んでいる時だった。


「あの……離婚届を取りに行ったんです」


体育教官室には他に誰もいないので、誰の声かはすぐにわかる。

長谷川先生だ。


「話し合いはまだですか?」

「はい。離婚届を持っているだけで強くなれる気がして」


顔を上げると、寝不足なのか疲れた表情をしていた。


「離婚を前提に話をするんですか」

「わかりません。でも……私が本気だってことをわかってほしい」

「もし、旦那さんが反省して、浮気ももうしないって言ったら許します?」


長谷川先生は、俺にこんなことを言ってほしいわけじゃないのかもしれない。

きっと、優しくしてほしいんだろう。



でも、俺は何もできない。



「許せない、かな。でも、このままじゃもうダメなんです」



教師をしていて、家庭もゴタゴタしていて、きっとどちらもが中途半端になっているんだと思う。

最近、会議でも発言しないし、限界なんだろうな。



「夏休みにでも家族で旅行とかどうです?今年は、部活も減らしていく方向みたいですし、休みも取れると思いますよ」


俺が前向きな発言をしても、もう長谷川先生の心には届いていないようだった。



「ですよね……」

「俺、家ではスマホほったらかしにしてるんで……返事はできないんですよ。すいません。夜につらくなる気持ちはすごくわかるんで、誰か他に聞いてくれる友達とか……」

「ごめんなさい。夜にいろいろ考えてしまって……怖くなって」



昨夜も、来た。

【今話せないですか】




俺が既婚者だってわかってんのに。



俺が慌てて、スマホをポケットに入れたこと、きっと直は気付いている。

なのに、俺はどうしていいのかまだわからずにいる。