俺は嵐の二の腕を少し引っ張り、奥のソファへと座らせた。


「よく、俺に話してくれたな」

「他に誰に言えるんだよ」


俺が目指しているのはそういう存在だったりする。

だから、こう言ってもらえると、教師をしていて良かった、と思う。


日焼けした黒い肌に、茶色い髪。

モテ男の嵐が、嫌がる相手にキスをするなんて、信じられない気持ちだった。


「嵐が好きな相手なの?」

「そうでもない。ただ、抑えられなかった」


年に1度くらいこういうことがあるのも事実。

思春期の男子、欲望と理性のコントロールができないことがある。


「中学生じゃないんだから、それくらいわかるだろ」

「相手は中学生。バレンタインにチョコくれた子で、俺のこと好きって思ってた」


俺は、立ち上がって、嵐の肩を掴んでいた。


「お前、自分のこと好きだからって何でもできるって思ったのか!!」


「……そうかも」


「お前さぁ……その子、どんな気持ちだったと思う?最低だよ。情けない」



うつむいたままの嵐は、何も言わなかった。


「俺は、嵐のことは好きだしかわいい生徒だよ。陸上部でも頑張ってるし、人間的にもお前はしっかりしていると思ってる。その気持ちに今も変わりはない。欲求があるのは、当たり前なんだよ。それをどう自分でコントロールするかだよ。それができなかったら、いくらお前がいいヤツでも、そんなことは関係なく、誰もお前を好きにならない」


「キスしたいって思った。してみたいって。好きとかそんなんじゃなかった」


「その感情は別に悪いことじゃない。ただ、キスしたいって思って、それを行動にうつしてしまうのは、ダメなんだよ。病気だよ、それは」


「俺のこと好きだったら嫌がらないと思った……」


まだ高校生は未熟な部分がたくさんあるんだと改めて思った。


「俺、よく保健の授業で話すんだけど、愛し合っていてSEXをするとして……女の子のことを大事に思うなら絶対に避妊する。自分の欲望のままに避妊しない男は、自分のことしか考えていないバカ男だから、別れろって」


「難しいな。今考えたらわかる。でも、いざエッチするってなったら、避妊しなくてもいいじゃんって思ってしまうかもしれない」


男って、性欲によって人格が変わることがある。

女の人にもいるのかもしれないけど、男は特に。



あんなに優しい彼なのに、エッチになると強引で怖いって相談も多い。


「お前の気持ちだけではどうしようもないモノが、そこについてるんだよ」

俺が嵐の下半身を指差すと、嵐は照れたように笑った。


「笑いごとじゃない。それは、お前自身がコントロールしてやらないと暴走する。いくら興奮して、やりたいって思っても、目の前にいる女の子が幸せそうな顔をしていなかったら、絶対にストップかけなきゃいけない。それができなきゃ、お前はいつか犯罪者になるよ」



「……俺、どうしたらいいかな。あの子に謝りたいけど、泣かせちゃったし……」