―直への愛と葛藤― 【先生目線】


今日は久しぶりに直がお弁当を作ってくれた。

俺は、体育教官室のいつもの席で、お弁当を広げた。


「愛妻弁当ですか」


定番の声がかかる。


「へへへ、そうっすね」


ベテランの先生がふたり、うらやましいなぁと部屋を出て行った。



「新垣先生、昨日はありがとうございました」


背後から俺のお弁当を覗き込んだのは、長谷川先生。

今年から赴任してきた女性教師で、生徒からも人気のあるいい先生だ。


「いえいえ、何も力になれないですけど」

「お礼に食堂で焼肉ランチでもおごろうと思ったんですけど、奥さんのお弁当ですね」


俺の肩をポンと叩き、ひやかすような目で俺を見た。


「焼肉ランチですか。食堂で一番高いやつですよ」


「冗談ですけどね。話聞いてもらえて、楽になりました」


「それなら良かった。あまり無理せずに行きましょう」



俺より年下だが、俺とは違い、いろんな高校への赴任を経験している。

俺はこの高校ではベテランの域だけど、他の高校での経験が少ない。



彼女は、とにかく明るく元気いっぱいで、落ち込んだ顔を見たことがなかった。


そんな長谷川先生が、昨日不安な表情で、夕日を見ていた。

多分、泣いていた。



その横顔を見て、直のことを思い出した。

高校のいろんなところに直を探してしまう俺は、寂しげな生徒を見ても、直を思い出してしまう。



長谷川先生は、結婚されていて子供もふたりいる。

それで、担任も持って、部活も担当している。


忙しいのにパワフルだなと思ってはいたが……


限界が近かったようだ。