先生のシャワーの音を聞きながら、気持ちは高校時代へと飛んでいた。
『俺、転勤するかも』
そう言われたあの時のこと。
先生の車の中だった。
まだ好きだと言う前。
『お前を置いて、行けないよ』と言ってくれた。
先生がいない高校は想像ができなかった。
あの時、もしも転勤になっていたら……私達の今は、変わっていたのかな。
運命だったとしたら、どんな形でも結ばれていたのかな。
でも……会えなくなったら、教師と生徒ってもう終わっちゃうもん。
お風呂から出てきたら聞いてみよう。
あの時、転勤していたらどうなっていたと思う?って。
ブルルルル
テーブルの上で震えたスマホ。
出しっぱなしのスマホを見て、安心することがある。
何もやましくないからこそ、こうして堂々とスマホを放置できるんだから。
サッカーのママ友の旦那さんは、トイレにまでスマホを持っていくから怪しいって話してたっけ。
最近のスマホは余計な機能がついている。
メッセージを画面に出す機能はいらないよ。
『今日はごちそうさまでした』
そんなメッセージ、目に入ってしまったら、消せないよ。
送り主は、私の頭から消えなかった長谷川先生だった。
すぐに画面から消えたメッセージ。
今日、ふたりでお茶していたのか。
先生がごちそうしたのか。
転勤の話だったの?
将来は、陸上部を長谷川先生に任せたいって言ってたことがあったし、同僚ならお茶してもおかしくないもんね。
心配かけると思って、名前を出さなかったのかな。
私が嫉妬深いから、仕方がない。
それも先生の愛情だもん。


