9時を過ぎても帰らない先生。

不登校の生徒、学校を辞めると言っている生徒、部活内のトラブル。


いろんな悩みを抱えている生徒がいて、それに向き合う先生。


私は何もしてあげられない。



先に空を寝かせて、リビングのソファでうとうとしていた。


ガチャ



先生が帰ってくると、今でもドキっとして。

髪を整えて、玄関まで走っていく。




「おかえり!」


「お、おう!ただいま。遅くなってごめん」


「今日はオムライスだよ。空がケチャップでサッカーボール描いてくれたんだよ」


手を洗う先生の後ろにまとわりつく私に、先生はいつも笑う。


「ほんと、犬みたいだな、直」


「ふふ。待ってたもん」


空が寝ていたり、いない時は、まだまだ恋人気分。

空がいると、完全にママモードで、別人のようだって先生は言う。



「あ、ちょっとお茶飲んできてその時に腹減ってワッフル食べちゃった」

「え~!ワッフル、いいな」


そう答えながらも、胸がチクンとする。

チクンというが、ドヨンというか。

胸の中が、ドロっとする瞬間。

瞬時に、誰と?どこで?何の話?って気になってしまうから。



それをできるだけ見せないように元気に返事をする。


「じゃあ、オムライス、明日の朝食べる?」


「いや、今食べるよ。ワッフルだけじゃ全然足りない」




その先を聞きたいのに聞けない私がいた。

先生がカフェでお茶するなんて珍しい。

喜多先生と帰りにラーメンとか、他校の先生との会合の後に飲み会とかはあるけど。



「ケチャップ率、高いな」

先生は唇にケチャップをつけながら、美味しそうにオムライスを食べている。

私は笑っているのに、心の中ではいろんなことを考えていて、こういう性格が嫌になっちゃう。



昔からそう。

事実かどうかもわからないのに想像して、それが本当なんじゃないかと思ってしまう。



今頭の中に浮かんでいる人はひとりだった。



長谷川先生。

今年赴任してきた体育の先生。

先生と同い年の美人なサバサバっとした先生。

一度だけ会ったことがあるけど、会った時に思った。


私にないものを持った人だって。

そういう人に私は嫉妬してしまう傾向がある。

ようやく自分の傾向がわかってきた。



長谷川先生も熱心な先生で、先生の口からよく名前が出る。

結婚もしているし、別に心配する相手ではないんだけど……