それから数日後、嵐が体育教官室へとやってきた。

「陸上部入るから。それが俺にできる親孝行かなって」


足の速い選手が陸上部に入部してくれたことも嬉しかったが、何より嵐が心を開いてくれたことが嬉しかった。



直には言えなかった。

初めてかもしれない。

言いたいのに、言わないでおこうと思うなんて。


あの日、直に嵐の母親の話をして、直がとても不安そうだったし、嵐の母親の気持ちにもなって苦しんでいるように見えた。

ちゃんと話して分かり合えたはずだけど、言わない方がいいのかなと思った。



大会などで、嵐を応援する母親と会うこともあるかもしれない、と直は心配するだろう。


結婚して、夫婦になり、父と母になり、いろんなことを乗り越えてどんどんいい関係になっている俺たちだと信じていた。


直は俺を愛してくれてるし、俺も愛してて。

でも、直は母として空を愛していて、俺との会話も空中心になっているのは事実で。


さみしいとか、そんな気持ちはないんだけど、もっとちゃんとお互いを見なきゃいけない時期なのかもしれない。


そんなことを考えながら帰ると、直はサッカーのコーチと電話をしていた。



「ただいまっ!」

「おかえり」

俺を迎えてくれたのは、空だけだった。


【先生目線END】