「今日さ、中川嵐って生徒が俺に会いに来たんだ」


俺は何でもこうして報告しているけど、それが果たして直にとっていいことなのかはわからない。

ただ、隠し事はやめようって決めているので、できれば話したい。


「かっこいい名前だね!さすが今の子は違うね」

「それがさ、いきなり来て、俺の母親は新垣先生の元彼女ですって言ってきてさ」

空にスープを飲ませていた直の手が止まる。


「いや、もう解決したんだけどな。どうやら高校時代に短い間付き合ってた彼女の息子だったらしいんだよ」


スープをかき混ぜながら、視線を落としたままの直。


「直?」

「ん、ごめん。そっか。そうなんだね。先生は、まだまだ私の知らない人と付き合ってたんだよね」


言わなければ良かったのかもしれない。

直には、俺の過去のことで苦労をさせているし、普通は知らなくてもいい元カノの存在で苦しんでいた。


「ごめん。俺、全然覚えてないくらいの人だから。ほんとに」

「何、それ。覚えてないような人と付き合ったの?先生って、昔どんな人だったの?そんなに好きじゃない人といっぱい付き合ってんじゃん」


怒り口調の直を見つめる空に気付き、直は落ち着かせるように深呼吸をした。


「空、もっと飲む?」

「飲む飲む!」


口の周りをコーンスープ色に染めた空が俺を見た。


「パッパのバカ~」


最近覚えた言葉だけど、今の俺にはズシンときた。